僕の秘書に、極上の愛を捧げます
眠れない・・。

部屋を暗くしても寝返りを打っても、一向に眠気がやってこない。

「そりゃそうだよね・・」

眠れないのは、『ぎゅっ』とされた戸惑いが原因じゃない。
自分が最後に口にした、あの言葉がすごく引っ掛かっているからだ。


『専務に『ダメか?』って聞かれて、断れる女性なんているんですか?』


どういうつもりで言ったのか、自分でもすぐに答えが出ない。

専務の周りにいる女性たちと同じように扱われたくなかったのか。
いくら部下とはいえ、何でも受け入れると思われたくなかったのか。


・・違うよね。

あのままもう一度抱き締められたら、気持ちが膨らんでいくのを止められないからだ。

「だからって、あんなふうに言わなくても・・」

専務を、傷つけただろうか。
私を、どう思っただろうか。

もし、あの時もう一度抱き締められていたら。
雰囲気に流されて、今頃は同じベッドの中にいたかもしれない。

それを、望んだ?
専務と、そうなりたかった?

自分に問いかけて、私は首を左右に振った。

とても、素敵な人なのだ。
大げさではなく、誰もが憧れて、誰もが抱かれてもいいと思うような、そんな男性。

専務が、私なんかを本気で相手にするわけがない。
これ以上のめり込んだら、傷つくのは私だから。

でも・・。

でも、もし本当に気持ちを傾けてくれていたのだとしたら・・?

「もう一度、抱き締めてもらえばよかったのかな・・・・。そしたら・・」

もう少し、気持ちが整理できたかもしれないけれど。

その後も私は、専務が後ろから覆うように抱き締めてくれた感覚や、耳元で囁かれた声を何度も思い出してしまい、結局、朝まで一睡もできなかった。



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