僕の秘書に、極上の愛を捧げます
「どうしたんだ翔子、目の下にクマができてるぞ」

専務の離席中、役員室でプレゼンの準備をしていた遠藤が、何日も続いている私の睡眠不足に気づいたらしくスッと目の下に触れた。

「あの・・そういうの止めてもらえますか・・」

「なんだよ、そういうのって。『翔子』って名前で呼ぶことか? それとも、こんなふうに触れることか?」

遠藤が面白がって私の頬をスリスリと撫でていると、ガチャッとドアが開いた。
入ってきた専務の動きが一瞬だけ止まったのは、遠藤の指が私の頬に置かれているのを見たからだろう。

何でもない・・と弁解したところで、無駄なことだと諦めた。

「随分と仲がいいんだな」

遠藤と私にそう言った専務の表情は、いつもの穏やかさが少しも感じられないほど冷ややかに見えた。

とはいえ、私はいつも通りに声を掛ける。

「専務、お疲れさまです。次のご予定まで時間もありますし、何かお飲みになりますか? すぐにお持ちします」

「いや、いいよ」

「・・そうですか」

今回だけじゃなく、あの夜を境に、なんだか専務と距離が開いてしまった。
否定的なやり取りが増え、あまり必要とされなくなった・・とでも言えばいいのか。

「宮田さん、午後の約束には少し早いけど、もう出たいんだ。食事も外で取る。先方に渡す手土産はある?」

「はい、いまご用意しますね」

キャビネットからお菓子を出そうと立ち上がった時、視界がぐらりと揺れた。
同時に、背中が急激に冷える。

え、何が起こっているの・・?

考える間もなく、目の前が真っ暗になった。



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