僕の秘書に、極上の愛を捧げます
通りに出て、タクシーを待つ間に彼女に電話をかける。

『もしもし・・?』

なぜ電話がくるのかと、不思議そうな彼女の声が聞こえた。

『恭介・・さん?』

「うん。翔子、いま話をしても大丈夫?」

『えっ・・。恭介さん・・もしかして、ひとりなの?』

「そうだけど、どうして?」

俺自身がざわついた外にいたからすぐには気づかなかったけれど、彼女もまだ帰っていなかったようで電話の向こうから話し声が聞こえる。

『どうして・・って・・だって・・』

「理紗は自分の泊まっているホテルに帰ったし、俺もこれから帰ろうと思っていたところだよ。それより・・まだ外にいたんだね。今どこにいる?」

『最寄り駅に・・着いたところ』

「そうか。じゃあ、話は明日にしよう。話しながら歩くと、周りに気を配れないから危ないし。家まで、気をつけて帰って」

『はい・・じゃあ、明日』

ツーツーツー・・。

切れた電話を見つめながら、小さくため息をつく。

理紗のことを説明しようと電話を掛けたものの、俺は何をどう伝えるつもりだったんだろう。
込み入った事情もあるし、彼女には話せないことも多い。

佐伯のこともそうだ。
なぜ佐伯に会いに行ったのか、彼女を問い詰めずに聞き出すことができただろうか。

すれ違いたくないし、距離も作りたくない。
そう考えて電話したものの、何も話せずに切ってしまった。

『もしかして、ひとりなの?』

あれは、理紗と俺が遅い時間まで一緒だと考えているからこそ出たセリフだ。

気持ちを伝え合って身体を重ねても、それだけで揺るぎない関係ができるわけじゃない。

彼女は、俺の過去の相手や理紗に、そして俺に対しても。
俺は、遠藤や佐伯に。

自信の無さからくるネガティブな気持ちを、お互いに心の中で抱えていた。



< 50 / 97 >

この作品をシェア

pagetop