僕の秘書に、極上の愛を捧げます
理紗の父親・・CEOは過労が積み重なって倒れたらしく、少し心臓が弱っているのだという。

すぐ命に関わるようなことはないが、しばらく安静、その間は仕事をしないようと病院での滞在を言い渡されているそうだ。


「お父さん、その後どう?」

「理紗か、だいぶ調子が戻ってきたよ。今朝は少し外も散歩した」

「そう、それなら良かったわ。今日は恭介も一緒なの」

「はい、CEOにご意見を伺いたいことがありまして」

そう言った俺を見て、CEOはククッと笑う。
良く見ると、笑顔のシワが随分深くなったように感じる。

「そんなにかしこまるなよ、恭介。親父みたいなものだろう?」

「まぁ・・そうなんですが、呼び方に困るんですよ。もうしばらくはCEOと呼ばせてください」

「分かったよ。ところで、意見を聞きたいというのは?」

「あー・・恭介とゆっくり話して。私、ランドリーに行ってくるわ」

理紗が洗濯物をランドリーバッグに入れ、部屋を出ていく。
ニコニコとしていたCEOの表情が、経営者の顔に変わった。

「事業譲渡の件、どうなってる?」

「はい・・進めてはいますが、相手方が優位な立場だと勘違いしているようで、条件交渉が難航しています」

「CEO不在の、存続が危うい会社を救ってやるんだから・・くらいに思われてるってことか。足元見られてるな」

「まぁ、そんなところです。情報合戦もかなり壮絶で。そこで・・なんですが」

俺は持参したタブレットをCEOに手渡し、密かに作成していた事業計画書を見せた。
何も言わずに読み進めていたCEOが、あるページで目を見開く。

「恭介・・本気なのか? 俺たちのことは了承をもらったと理紗に聞いたが、お前まで・・・・」

「はい。ニューヨークに来て状況を把握してから、少しずつ考えていました。一応、社外取締役として籍は残してもらったので、秘密裏に動いていても不審に思われないですし」

「それは、そう・・なんだが・・」

俺は、いや "俺たち" は、決意を固めたのだ。



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