僕の秘書に、極上の愛を捧げます
翌日の午後、CEOを迎えに病院へクルマを走らせた。

「何日ぶりの外だろうなぁ」

病院のエントランスを出て伸びをしたCEOは、そう言ってクルマの助手席に乗り込む。

「恭介、貴弘は来たのか?」

「はい。ふたりで、昨晩圭さんのところにも顔を出してきました」

「そうか・・、いよいよだな。とはいうものの、理紗にも小夜子にも何も相談せずに進めたから、後が怖い」

ククッと笑うCEOは、今回の入院を機に『何もかも整理したい』という想いに至ったらしい。

きっかけは、間もなく60歳になる小夜子さんだ。
親父が亡くなってから、CEOが小夜子さんと俺を支えてくれただけじゃなく、10年ほど前に亡くなった理紗の母親を看取ったのは小夜子さんだった。

そこから、ずっとふたりで支え合ってきたのを理紗も俺も知っていたから。

理紗が突然俺の前に現れ、『父が小夜子さんとの再婚を承諾してほしいと言っている』というのにも応じ、一晩で日米両国の様々な手続きを進めたのだ。

その直後に、CEOが倒れた。
さすがにそれは想定外だったから。

明らかに動揺している理紗だけじゃなく、小夜子さんも心配だった。
そして、もちろんCEO不在の会社も気がかりで俺はニューヨークに来た。

「なぁ、恭介。俺は、本気で会社を譲渡するつもりだったんだ。もう引退して、小夜子とのんびり暮らすのも悪くないし、理紗もようやく会社から解放されるだろう?」

「もちろん、そこは分かってますよ。ここからは俺の我儘ですから」

「いや・・・・感謝してるさ。『いい息子』を持ったと思ってる。ただ、こうすることで恭介自身は幸せになれるのか? 本来、背負わなくてもいいものを背負うことになるんだぞ」

「そうですね・・・・いまの俺には背負いきれないかもしれない。ただ、CEOや理紗が守ってきたものを、俺も守りたいと思っているだけです。家族として」

そう言い切った俺に、CEOは顔を背ける。
その肩が、小刻みに震えていた。



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