君はまだ甘い!
「今回の奈良のイベントは年に二回あるんです。そのたび来てもいいですか?!」

「え?あー、うん、いいよ」

前のめりに尋ねる様子に、自分に会いたがってくれてる?と、ちょっと嬉しくなった。

「あ、でもそれじゃ年に二回しか会えないってことですよね…」

今度はしょんぼりして肩を落とす。
本当に一つ一つの感情をそのまま表現できる人なんだな、と感心する。
が、

(てか、それって、どういう感情??)

マヤは急にそわそわし始めた。

そんなマヤの様子に気付いたのか、トオルは、

「あ、いや、あの、・・・」

と何か言いかけたが、ユカが戻ってきたので、そのまま口をつぐんでしまった。


店を出ると、トオルが車でマヤたちを送ると申し出てくれたので、一緒に車に乗った。
トオルの車は白のマツダのデミオで、〈20代の独身男性=スポーツカー〉という勝手なイメージを抱いていたマヤには意外だったが、トオルに似合っているとも思った。

車内でまたゲームの話になり、ユカがどうしても一緒にそのゲームで対戦したいと言い出したので、そのまま我が家に招く流れになってしまった。

母娘二人暮らしの部屋に男性を入れることに多少躊躇したが、トオルが無害であることはほぼ確信があったし、ユカも全く警戒していない様子だったので、ま、いっか、とそのまま流れに任せた。


普段、会話の無い二人が静かに過ごすリビングは、トオルが加わることで、鮮やかな色彩と活気に包まれた、新しい空間に生まれ変わったかの様に感じ、マヤはなぜか泣きそうになった。

トオルは、ユカに対して変に気を遣うこともなく、おっとりマイペースで終始リラックスしていて、時折ふと柔らかな笑顔をマヤに向けてくる。
その様子は、マヤの心に大きな安心感をもたらす。

二年以上も過ごしてきたこの部屋に、マヤは今日初めて居心地の良さを感じたことに気が付いた。
離婚してからずっと失っていた感情たちが、次々マヤの内側から蘇ってくる。
マヤは戸惑いながらも、それらの感情をひとつひとつ抱きしめるように受け止めていた。
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