君はまだ甘い!
だからこそ、だ。

この思いがばれないよう、そしてこれ以上大きくならないように、これを機に、このままフェイドアウトしようと決めた。

いい年をして、ひと回り以上も年下の青年に恋心を抱くなんて、見苦しいだけだ。
しかも超が付くイケメン。他人が聞いたら、身の程をわきまえろ、などと罵られるに違いない。

トオルの住まいが遠くて良かった。ゲームももうすることもないだろうし、楽しかった思い出として心の片隅にしまっておこう。

「聞いてるの?!」

そうぼんやりと考えていると、ユカの苛立ちを含んだ声が耳に届く。

「トオルくんにお礼くらい言ったらどうなん?」

「お礼?」

何のことかわからず、首を傾げる。

「トオルくん、私らのために演技してくれたんやで」

「演技??」

「そう。あの時、私がトオルくんに言ったから…」

「え?何を?」

「『絶対いや!』って。お父さんがやり直そうって言ってたの聞こえてた。お母さんも嫌やったよね?」

あの瞬間、僅かでもときめきを感じた自分を殴ってやりたい。
ユカのために一芝居打ってくれたってわけか。

「トオルくん、お母さんに悪いことしたって自分を責めてるよ。お母さんあれからまだ連絡もしてないんやって?」

「はぁ?何でそんなことあんたが…。は!もしかして・・・」

「ラインしてるもん」

いつの間に…。
大きくため息をついた。

自然にフェイドアウト、というもくろみはどうやら実現不可能なようだ。
ユカが連絡し合っているのに、自分がこのまま音沙汰無し、と言うわけにはいかないだろう。
しかも・・・。

(トオルが自分を責めてるって、どういうこと?)

その夜、マヤは自室のベッドに腰を掛け、意を決してトオルに電話をかけた。

『もしもし、マヤさん?』
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