君はまだ甘い!
二か月ぶりのトオルの優しい声音が耳に届き、顔が熱くなると同時に心臓がドキドキと脈打つ。
声が震えそうになり、一呼吸おいてから口を開いた。

「トオルくん、この前はごめんね。って…、もう二か月も経ってしまってるんだけど。夫婦のゴタゴタに巻き込んだ上、愛想なく帰らせてしまって」

『いえ。オレの方こそ、余計な事を言って、お二人の話し合いを妨げてしまってすみませんでした』

「あれ、ユカのために演技してくれたんだよね?私の恋人だ、なんて」

『はい…。でも、後ですぐ後悔しました。オレがそんな余計なことしなくても、お二人はきちんと話し合いをされたのに。それに、マヤさんも気分が悪かったでしょう?オレが恋人だなんて・・・』

眉を下げてしゅんとしているトオルが目に浮かぶ。

「そんな訳ないよ。トオルくんみたいな、その…素敵な男性が恋人って、たとえ嘘でも言われて嬉しくない人なんていないと思うよ」

『え?!』

言ってから、少し恥ずかしくなった。

「逆に、私みたいなおばさんの彼氏役なんて、気の毒だったよ~、ははっ」

軽口で誤魔化そうとしたが、トオルは押し黙ってしまい、気まずい沈黙が流れた。

「もしもし?」不安になりマヤが問いかける。

『マヤさん、今、オレのこと素敵な男性って言ってくれました?オレが恋人でも嫌じゃないんですか??』

声のトーンがわかりやすく一段階上がった。

『オレ、マヤさんのことおばさんだなんて思ったことないです。あの発言はユカちゃんのためでしたが、その…、オレの願望でもあるんです』

「!?」

『あ!いや、その…』

「な、何言ってんの!!」

驚き過ぎて、母親みたいな口調になった。
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