君はまだ甘い!
思い出して、体の中心部がボッと熱くなった。

(いかんいかん!)

慌てて長身の体を屈め、目の前にある、名も知らぬ花に手を伸ばし、意味もなく花びらを撫でる。
すると、マヤが近付いてきて、

「この花、可愛いよね!」

と、トオルの横に同じように屈む。

自分よりも下にあるその髪からふわりと甘い香りが鼻を掠め、クラっとした。
その香りに誘われるかのように、思わず手を伸ばしそうになる。

ハッと我に返り、そんな邪念を振り払うかのごとく、すくと立ち上がる。
大きく息を吸い込んでから、マヤの方に向いた。

「マヤさん、写真を撮りましょう!」

絶好の背景になる位置をすばやく見つけ、マヤを手招きする。

大阪のグリコの看板の前でもツーショットを撮ったが、あの時はまだ何も意識していなかったので自然に寄り添えていた。
マヤも意識しているのか、ビミョーな距離を空けるので、自分でスマホを構えると、フレームに入りきらない。

「ほら、もっと寄って」

ためらう自分をも鼓舞し、ぐいとマヤの肩を引き寄せた。

その頭頂部からまたやわらかな香りがして、思わず息を吸い込んだ。
肩に触れた手から、ドキドキと煩く響く心臓の音が伝わってしまいそうで、シャッターを押すとそそくさと離れた。

(オレ、今日一日もつのだろうか?)

しかし、そんな不安は微塵も見せず、いつも通りニコニコと微笑みかけることができるのは、トオルの特技の1つでもあった。
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