君はまだ甘い!

第10話 奪われる恐怖

《グラドル月野澪、イケメンバスケ選手と復縁していた!》

名古屋から戻った翌週の日曜日。
行きつけの美容院で何気なく手に取った週刊誌。
その表紙の隅にある小さな見出しが目に飛び込み、マヤは凍り付いた。

見開きの右ページにあるモノクロ写真には、マンションとおぼしき建物を背景に並んで歩いている二人の姿。
あの時のへそ出しファッションの澪と、ジャージ姿のトオルだ。

画質の悪い白黒写真ですら、見るものを惹きつけるほど絵になっている二人。

写真の下には、《数時間後、男性のマンションから出てくる二人》とご丁寧なキャプション付きだ。

どす黒い感情が腹のあたりで渦巻いているのを感じた。
それは自分にとっては、あまりにも馴染んだ感情。

見た目が良く、モテるヒロキと結婚したばかりに、常に、「奪われるかもしれない」という不安を抱えながらの結婚生活だった。
そして、結果奪われた。
屈辱と喪失感、そして、自己否定感に苛まれ、遂には精神を病み、パニック障害を発症した。

あれをまた繰り返すのか?

脇の下にジワっと汗が滲んできた。背中がゾクッとして、鼓動が速くなる。
フラッシュバックの予兆を感じ、応急措置の深呼吸をする。


トオルは自分を好きだと言ったが、あれは一時の気の迷いだ。
それなのに、いい年をして、ちょっと浮かれて、調子に乗ってはるばる名古屋まで行って…。

澪に目を覚ましてもらい、今、感謝すらしている。
もう彼とは会わない方がいい。

名古屋からの帰り、そう自分で結論付けて、トオルからの連絡を一切無視している。

記事に心が乱されつつも、これでさらに決意が固まった。
無意識に強くかんでいた唇に痛みを感じながら、ページを閉じた。


その二日後、珍しくルイから電話がかかってきた。神戸で会って以来だ。
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