君はまだ甘い!
その後、ほぼ毎日メッセージが届き、マヤの固かったはずの決意は、彼によっていつの間にか煙に巻かれていた。

『初戦突破です!』
『今日の練習はきつかったです。ちょっとビール飲んじゃいました』
『来期から所属するチームが決まりそうです』

トオルのお気に入りの子犬キャラのスタンプ付きで、毎晩届くメッセージに、最初のうちは、「おめでとう」「がんばって」と、一言返すだけだったが、いつしか、読みながら相好を崩し、癒されていく自分がいた。

『明日は決勝戦です。ここまで来たら、優勝しかないっすね!』

ピースサインをするキャラクタースタンプが届いた。

実業団バスケは、平日は会社員として働き、夜や週末に練習すると聞いている。
さらに今、トオルはプロに向けての準備もあり、超多忙なはず。

そんな中、こうやってマヤにメッセージを送ってくるトオルが愛しくて仕方ない。
自分もトオルに何かしてあげたい、と思う。

決勝戦なら本当は応援に行きたい。
会って、「頑張ってね!」と顔を見て言いたい。
しかし、時間的にもそういうわけにはいかない。

ならば、せめて…。



『マヤさんから電話くれるなんて嬉しいです!』

「遅くにごめん。明日、頑張ってね。会場には行けないけど、応援してる」

『マヤさん…』

トオルは一瞬黙り込んだが、次の瞬間には弾けるような声になっていた。

『はい、頑張ります!これが終わってプロ契約も決まったら、退職の手続きとか引継ぎでまた忙しくなるんですけど、12月には会いに行きたいです』

12月・・・。そう言えば去年の12月にトオルと初めて会った。

コーヒーぶっ掛け事件を思い出し、あれが無ければ、今こうして二人で親しく話すことはなかったのかもしれない。
一人思いに耽っていると、訝し気にトオルが呼びかける。

『マヤさん?』

「あ、ごめん。何でもない」

『実は、12月24日はオレの誕生日なんです。ちょうど土曜日なんで、一緒に祝ってくれませんか?』
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