君はまだ甘い!
柔らかな空気を纏うトオルの声に、ドキドキと心臓がうるさく反応し始めた。

トオルの無邪気さに完全に絆されている自分を自嘲しながらも、あの人懐っこい、優しい笑顔のトオルに会いたい、と思う自分を素直に認めるしかない。

「わかった。楽しみにしてるよ」

少し沈黙があった。

『楽しみって…。マヤさん、それってオレ、期待してていいんですか…?』

トオルの声が穏やかながら、静かなトーンに変わる。

「うん・・・」

とだけ答えて、顔が熱くなり、それ以上何も言えなくなった。

『わ、わかりました!じゃあ、また連絡します!』




それから三日後の夜、マヤはそわそわしながらスマホを何度も確認している。
トオルから決勝戦の結果報告がまだ来ない。

(負けたから報告したくない、とか?)

でも、トオルはそんな事を気にする性格ではないはず。
「試合どうでしたか?」と軽く様子伺いのメッセージを送ってみるものの、二日たった今もまだ既読にならない。

マヤは不安を感じ始めた。

(トオルが自分に冷めたのか?)

あれから三日しか経っていないので、それはないような気がする。
少なくとも今は。
それよりも、トオルの身に何かあったのでは?という胸騒ぎのようなものを感じる。

居てもたってもいられなくなり、名古屋で覚えた、トオルのチーム名をネット検索してみた。

トップにチームと会社の紹介ブログが表示され、そこにソーシャルメディアのリンクがあったので飛んでみた。

『10月〇日決勝戦の結果』

という最新らしい投稿が目に入り、クリックする。

まず目に入ったのは、”2年連続優勝を果たした”という一文。
しかしすぐには喜べず、さらに読み進めると、

”SGの深瀬選手が負傷し退場”という文が目に飛び込み、心臓が跳ねた。

その記事は、”エースの途中退場というチーム最大のピンチにも拘わらず、選手が一丸となってつかみ取った勝利”を祝福する形で締めくくられていた。

トオルの状況、負傷名などは、どこを探しても見つからなかった。
マヤは体中から血の気が引くような感覚に囚われ、呆然と立ち尽くしていた。
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