君はまだ甘い!
「大丈夫。しばらくはおあずけですが、3か月くらいで完治するって。もちろん、12月の約束も大丈夫です!」

朗らかな声で伝えると、マヤの安堵のため息が耳に届き、胸が温かくなる。

「オレ、意識回復して真っ先に思ったのは、マヤさんに会えないまま、まだちゃんと返事ももらえないまま、死ななくて良かったってことなんですよ」

トオルが笑いながら言うと、一瞬の沈黙の後、マヤの息を呑む音が聞こえた。

「12月、楽しみにしてるんで…」

トオルは穏やかに、だが、その口調には期待が込められていた。




今年はクリスマスイブが土曜日ということもあり、夜の大阪の街は、特に若者やカップルでにぎわっている。
幸せそうな恋人たちの顔が街中に施されているイルミネーションでキラキラと輝いている。

大阪市内のフレンチレストランの前。
先に着いたマヤは、マフラーを鼻まで被り、手袋をした両手をこすりながら道行く人々を眺めていた。
5カ月ぶりのトオルとの再会に胸が高鳴る。
火照った顔を刺す冬の冷たい空気が心地よく感じられる。

長身のトオルは、遠くからでもすぐに見つけられた。
その表情に少し疲れが見えたが、トオルはマヤの顔を見るなり相好を崩し、駆け寄ってきた。

「お久しぶりです、マヤさん!」

紺色のダッフルコートのポケットに手を入れながら、少し腰をかがめて嬉しそうにマヤの顔をのぞき込む。

トオルは前より髪が短くなり、精悍な顔付きになっていた。
ケガというトラブルを経て、厳しいリハビリ、そしてプロへの挑戦など、目まぐるしい生活の変化に向き合う日々が、彼をひと回り大きく成長させたのだろうか。

そんな彼を目の当たりにして、マヤは忙しなく跳ねる心臓の音が聞こえないか、と心配してしまうほどだった。
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