君はまだ甘い!
「ちょ!ちょっと、トオルくん!」

部屋に入るなり、トオルに抱きしめられたマヤは、今度は固まってしまった。

トオルの滞在するホテルの部屋は、モノトーンのインテリアの落ち着いた雰囲気で、足元から広がる大きな窓からは美しい大阪の夜景が一望できた。

「ずっとこうしたかった…」

身長差があるので大きく身を屈めながらマヤの肩に顎をのせ、頬を摺り寄せ耳元で囁く。

鼓動が速まり、触れる頬から伝わる体温が温かくて、思わず目を閉じる。
思えば、まだ手さえ握られたこともなかった。
いきなりの濃厚なスキンシップにドキドキしながらも、トオルの背中をポンポンと優しく叩き、大人ぶってみせた。

トオルは体をそっと離すと、マヤの顔を覗き込んだ。

二重瞼の優しい印象を与える少し垂れた目。
その中で静かに揺れる瞳には恥ずかしそうに顔を赤らめる自分が揺らめいている。

これまでは、見つめられることが恥ずかしくていつも目を逸らしていた。
でも今は、真っすぐに思いをぶつけてくれる、この愛しい存在を受け入れたいし、自分の想いも伝えたい。

トオルの手のひらがマヤの両頬を包み込む。
その冷たい感覚が、熱く火照った頬に心地よい。ゆっくりとトオルの顔が近付いてくる。

鼻と鼻が触れたところでぴくっと体が反応した。
トオルはその鼻先でマヤのそれにすりすりと触れる。

「ふふ」と思わず笑みが漏れた。

トオルの顔の角度が傾き、ゆっくりと近付いてきたので目を閉じる。
温かくて柔らかな感触が唇を覆った。
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