君はまだ甘い!
マヤは、ゲームごときで機嫌を損ね、それを悟られた上、相手に、しかもうんと年下に、気を遣わせている自分がとっても小さな人間に思え、恥ずかしさと情けなさで消え入りたい気持ちになった。
と同時に、トオルのその悠々とした中にも、どこか幼さが感じ取れる話し方に、すっかり毒気を抜かれてしまった。
両手で頬をパンパンと叩き、深呼吸をして、気持ちを切り替えることにした。

「そのアバターは寅さんだよね?スキなの?」

みんなと話す時は大阪弁を使うが、ちょっとかしこまっているので今は標準語を使う。

「あー、はい。じーちゃんが好きで子供の頃、一緒に観てハマっちゃって。結局じーちゃんちのビデオ全部持って帰って一人でも観てました。オレ、寅さんの生き方に憧れてるんです」

さすが、国民的人気を誇る日本の名作だ。世代を超えて、平成男子をも魅了しているのだな。

「そうなんだ。私もいくつかシリーズ観たよ」

特にマヤ自身もその世代ではないが、親と一緒に観た記憶がある。

「そうなんですか!どのタイトルです?オレは全部観ましたよ!」

思った以上に喰いついてきたので、一瞬たじろいだ。実際のところ、観たといってもほとんど内容を覚えていないので、この話題を継続することには気が引けた。

「ただいま~~」

ルイと帝王が良いタイミングで戻ってきたので、会話はそこで打ち切られて内心ほっとしたが、”寅さん”の生き方に憧れている、というこの25歳青年に、なぜか少しの好感と興味が生まれて、マヤの口元に笑みが零れた。

********

その後ひと月ほどの間、マヤたちは相変わらず毎晩遊んでいたが、トオルは2回入ってきただけであった。

ルイ達と遊び始めてそろそろ1年が経とうとしていた、12月に入ったばかりのある日、ルイがオフ会を提案してきた。
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