百物語。
ちらりほらりと、目に付くのはやはり空から無意味に降ってくる雪であり、それは私の肩に積もってゆく。

雪の感覚はあるのに、冷たいと思えないのはなぜだろう。

何とも不思議で、奇妙な感情を抱いた。

どうしようもなくて、私は動かない足を無理矢理動かすようにして我が家へと戻った。もしかしてお父さんもお母さんもいるかもしれない。普通にくつろいでいたりしたら文句の一つでも言ってやろう。

私はもしかしてもしかしてと、都合の良い方に考えながら再び家への扉を開く。ガチャリ、と無機質な音が響いた。

「お父さん、お母さん」

もう何度言ったか知れない言葉をまた繰り返して言う。

室内に無情に響き渡るだけの自身の声が自分に返ってくる。返答が返ってくることはなかった。

夢なのだろうか。何と悪質な夢なのだろうか?

夢であるに決まっている、忽然と人間が姿を消すなど有り得ない。それに、真夏に雪が降るというのも理解し難い。しかし全てが夢、ということならば理解も出来る。

自分はいつの間に眠ってしまったのだろう、さっき目が覚めた感覚も全て夢なのだろうか。

だったら何が現実なのか最早分からない。

はあ、と溜息をついて、私はリビングに向かいソファーに凭れかかった。

夢の中なら私に出来ることはないに等しい。あ、ほっぺたでもつねってみようか?

よく夢の中では感覚がないと言う。

ああ、それなら雪が冷たいと思わなかったのも理解できる。やっぱり夢だ。

そう思いながら、私は自分の指で思い切り自分の頬を引っ張った。痛くないはずであることはもう分かっているから、遠慮なしに。

けれどそれが間違いだった。
 
< 12 / 15 >

この作品をシェア

pagetop