百物語。
「ひ、った……!」

ぐっと引っ張られる自分の頬に走る鈍い痛み。私は驚いてすぐに手を離したが、こういう痛みは後々来る。

次第に痛み出す我が頬に、堪えるように目をつむり、痛みを和らげようとそこを摩る。赤くなっていても可笑しくない。

「…………」

痛い?どうして、痛い?何故、イタイ?

意味が分からず、呆然として俯きがちに視線を彷徨わせる。何となくした行動だったが、それのお陰でふとあることに気付くことが出来た。

「…あ、れ…」

消えている。先程までついていたはずの、テレビが。

誰もいないというのなら、この部屋のテレビが勝手に消えることはないはずである。しかしテレビ画面は黒く、鏡のようにリビングの様子を映すだけだ。

そこに驚いて目を丸くしている私が映る。私は静かに机に置かれたリモコンを手にする。

ドクンドクンと心臓が鳴る。切れるようにタイマーでもセットしてあったのだろうか?いや、それはない。

うちのテレビはタイマーセットしたとしても電源を消せばそれはリセットされる構造になっている。お母さんやお父さんがテレビを付けたあとにタイマーをセットするとは考えにくい。

それにタイマーセットをした場合、1時間前になったら左下にカウントが出る。私が外に行って家に帰ってくるまでの時間は感覚から1時間以上経っていないはずだ。

停電…というわけでもないようだ、電気は煌々と照らしている。誰かが消したとしか考えられない。それなのに人がいる気配は全くしない。
 
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