きみのためならヴァンパイア



ーー心臓が大きく跳ねたのを感じた。

口の中に、違和感。牙が口内に当たる。

筋肉の動かし方が変わったような、不思議な感覚。


以前、私が強くなりたいと願った日、これを飲むかとカプセルを差し出してきた紫月に教えてもらった。


『人間が飲めば、ヴァンパイアになれる』


ーー紫月の言葉通り、私は、ヴァンパイアになれたんだ。

ヴァンパイアは、人間より身体能力が優れている。

訓練を積んだ私の家族だって、まさか出来損ないの私が、突然自分より動けるようになったなんて思っていないはずだ。


これならきっと、ここを出ていける。

今すぐに塀の周りを見張っている叔父をかわして、外へ逃げることだって容易(たやす)いはずだ。


……でも、それをするには、ひとつ心残りがある。


ーー父親は、いや、父親だけじゃなく家族みんな、銀の弾丸がヴァンパイアの記憶を消してしまうことを知っていた。

私にだけ教えてこなかったのは、私がヴァンパイアを人間扱いしているから、と聞かされた。

知っていてなおひどいやり方を続けるなんて、そんなの見過ごしたくない。


水瀬が言うには、銀の弾丸を製造しているのはうちだけで、おそらくそれは地下室で行われている。

つまりそこをどうにかすれば、これから先、銀の弾丸はこの世に生まれなくなるはずだ。

……記憶を消してしまうなんてやり方、絶対に正しくなんかない。

私が、どうにかしないとならない。

とはいえ今すべての銀の弾丸を消すのは無理かもしれないーーしかし、幼少期の記憶にヒントを見つけた。


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