きみのためならヴァンパイア



『陽奈、大きくなったら、これを受け継ぐんだ』


ーー幼い頃、私が無知ゆえにまだ優しかった父親と、地下室に入ったことがあるのを思い出す。


『誰にも話しちゃいけないよ。悪者をやっつける武器の作り方は、家族だけの秘密なんだ』


地下室は不快な匂いと、むせかえるような煙に満ちていた。

そこにあったのは、小さな金庫。

父親は私の目の前でそれを開けて、古びた紙の束を取り出した。

父親の言葉を思い返すと、紙の束にはきっと、銀の弾丸の製造法が記されていたのだろうと思う。


ーーせめて、それを奪ってしまおう。


私は、急いで地下室に向かった。

地下に通じる重厚な扉を開き、階段を駆け下りる。


……あった。


記憶通り、そこには小さな金庫が置かれたままだ。

ダイヤルを回す。

父親が金庫を開けるところを見たのは何年も前のことだけど、その番号は覚えている。

こういうのを覚えるのは、昔からずっと得意だったんだ。

ーー私の誕生日を、逆さまから。

それが、金庫の鍵の番号だ。


金庫が開くと、やはり紙の束があった。

ざっと目を通すと、思った通り、銀の弾丸の製法が記されているようだ。

後はこれを、捨ててしまえばいい。

そう思ったとき、扉が開く音が聞こえた。


< 156 / 174 >

この作品をシェア

pagetop