きみのためならヴァンパイア
「ーーっ、うん」
「……本当は、もう会えなくてもいいって思ってた。陽奈はまたあの家を出るだろうけど、それからどこか別の場所で、俺を忘れて、ヴァンパイアからも離れて、穏やかに過ごしてくれれば一番いいーーとかな」
「そんなっ、そんなの……」
そんなの、なんにもよくない。
私は紫月と一緒にいることが、何より幸せなんだ。
「ーーでも、違った。俺、そんなに余裕ねぇ。……だから、陽奈、もう離れたりしない。もう、離したりしねぇから」
「紫月……私もだよ。……私も、紫月とずっと一緒がいいよ」
約束代わりの、優しいキス。
紫月の輪郭を月明かりが染めていて、すごく綺麗だった。
「……じゃあ、帰るか」
「帰る、って……」
「俺たちの、家」
紫月がポケットから出したのは、前に見せてくれた新居の鍵。
「……うん……!」
二人の家と言ってくれて、うれしかった。
当然のように手を繋ぐことが、幸せだった。
これからも、ずっと。
これからは、ずっと。
離れることなく、隣を歩いていける。
ーー私たちの関係に、まだ名前はないけれど。
紫月が隣にいてくれるだけで、私は、幸せなんだ。