きみのためならヴァンパイア



「ーーっ、うん」

「……本当は、もう会えなくてもいいって思ってた。陽奈はまたあの家を出るだろうけど、それからどこか別の場所で、俺を忘れて、ヴァンパイアからも離れて、穏やかに過ごしてくれれば一番いいーーとかな」

「そんなっ、そんなの……」


そんなの、なんにもよくない。

私は紫月と一緒にいることが、何より幸せなんだ。


「ーーでも、違った。俺、そんなに余裕ねぇ。……だから、陽奈、もう離れたりしない。もう、離したりしねぇから」

「紫月……私もだよ。……私も、紫月とずっと一緒がいいよ」


約束代わりの、優しいキス。

紫月の輪郭を月明かりが染めていて、すごく綺麗だった。


「……じゃあ、帰るか」

「帰る、って……」

「俺たち(・・)の、家」


紫月がポケットから出したのは、前に見せてくれた新居の鍵。


「……うん……!」


二人の家と言ってくれて、うれしかった。

当然のように手を繋ぐことが、幸せだった。

これからも、ずっと。

これからは、ずっと。

離れることなく、隣を歩いていける。


ーー私たちの関係に、まだ名前はないけれど。

紫月が隣にいてくれるだけで、私は、幸せなんだ。


< 168 / 174 >

この作品をシェア

pagetop