きみのためならヴァンパイア




ヴァンパイア居住区は、日中はがらんとしていて、襲われることもなくすぐ抜け出すことができた。

もしかすると、間宵紫月が発する、近づくなという圧のおかげかもしれないけど。


晴天の下、ヴァンパイアと一緒に買い物なんて、変な気分だ。

日除け対策バッチリだとしても、夏の日差しはヴァンパイアには厳しいんじゃないかな。


「ねえ、日にあたっても大丈夫なの?」

「王様だぞ、俺は」


だから大丈夫ってこともないと思うけど、本人が言うなら平気なんだろう。


「……お前さ、逃げようとか思わねぇの?」

「うん。他に行くところないし」


間宵紫月が、意外と優しい人ってわかったし。


買い物袋の中には、数着の服や下着と、適当に選んだ食材。

お金は払わなくていいと言われた。

いや、正確には、体で返してもらうと言われた。

けれどそんなわけにもいかないし、私が貧血にならないためにも、後で絶対にお金を返すと約束した。

まあ、彼は真面目に聞いてくれなかったけど。


帰り道で、なんだかとても雰囲気のいいお店を見つけた。

昔ながらの喫茶店といった感じで、(ひさし)のかげに連なるぼんやりとした照明がかわいい。

黒板式の小さな看板には、独特な筆跡で『喫茶ともり』と書いてある。


「ね、ここ、素敵だね」


先を行く間宵紫月の服の裾を引っ張って、呼び止めた。


「あー……ここ? まあ、そうだな」


歯切れの悪い答えを疑問に思っていると、鈴の音を鳴らしながら喫茶店のドアが開いた。


「あれ、紫月君?」


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