きみのためならヴァンパイア
優しそうなおじいさんが危険なことを頼んでくるとは思えないが、間宵紫月が断ろうとするほどのことって、なに?
このおじいさん、実はとんでもない人だったりする?
「お嬢さん、うちでアルバイトをしないかい?」
「え?」
「紫月君のガールフレンドなら、ほら、一緒に来てくれたら助かるし」
「一緒にって――あなた、ここで働いてるの?」
「そーだけど」
驚愕の事実だ。
こんな素敵な喫茶店で働いているということもそうだけど、そもそも間宵紫月が労働しているなんて。
でも一人暮らしだし、バイトくらいするか。
もしかしたら、学校も行ってるかも。
私はまだ、彼のことを全然知らないんだ。
「なんでさっき教えてくれなかったの?」
「……お前がこの店を素敵とか言ってるから、なんか面倒なことになるかと思ったんだよ」
「うらやましい! 私もやりたい!」
ほらな、と呟く彼のそばで、おじいさんは優しそうに微笑んでいる。
「それはうれしいなぁ。紫月君、ちょうど明日来てくれる予定だよね。お試しで、お嬢さんも来てくれるかな?」
「来ます!」
「お前、勝手に……」
「だって、そうすれば自分でお金稼げるし! 頼りっぱなしは嫌だもん」
「それ、本当か? この店が気に入っただけだろ」
「もちろんそれもあるけど、本当だよ!」
正直なところ、半々だ。
家も働き口もなんとかなるなんて、私、運がいいかも。
「それじゃあ二人とも、明日、よろしくね」
「はい!」
「……了解です」
私の未来は意外と明るいかも、なんて、浮かれた帰り道。
ふいに間宵紫月の言葉を思い出して、気になってどうしようもなくなった。
「……ねえ、さっき、なんで嘘ついたの?」