きみのためならヴァンパイア
「人間になる他に、何が起きるの……?」
死ぬことに値するなにかなんて、想像がつかない。
「それまでの記憶が消える」
……そんなの、聞いてない。
たしかにそれじゃ、生まれ変わるようなもので、すなわち死ぬのと同じかもしれない。
私は、ヴァンパイアハンターが嫌いだった。
でもそれは、私の人生を勝手に決める家族のせいだ。
ハンターの仕事が、ヴァンパイアにそこまでひどい仕打ちを与えることだったなんて知らなかった。
紫月は外に倒れていた男を店内に運び、マスターと共に介抱する。
「……私、ハンターとかいう、正義を振りかざすクズ大っ嫌い」
樹莉ちゃんの言葉に、心が痛む。
「あんたみたいな人間にはわからないでしょ? 私たちヴァンパイアの気持ちなんか」
……私が人間だって、知ってたんだ。
それに樹莉ちゃんは、薄々感じてはいたけどやっぱりヴァンパイアだった。
「……本当の意味ではわからないかもしれないけど、でも――わかりたいとは、思うよ」
さっきのヴァンパイアハンターは知らない人だったけど、私の家族だって同じことをしてるんだ。
私だって、あの日逃げ出さなかったら、ハンターになっていたかもしれない。
そもそもハンターがヴァンパイアを狩っているのは、ヴァンパイアが人間を吸血依存症にさせてしまうからだ。
けれどそれだって、すべてのヴァンパイアが人間をそうさせるわけじゃない。
その事実は、ハンターとしての英才教育を不本意ながらも受けさせられた私でも、紫月に会うまで知らなかった。
それなら、他のハンターだってきっと知らないはずだ。
ハンターたちは、すべてのヴァンパイアを人間にとっての悪だと信じて、狩り尽くしてしまおうとしている。
「……わかろうと思う? 今さらわかったとしても、失ったものは戻らないんだよ」