きみのためならヴァンパイア
銃声だと、すぐに理解した。
家の訓練で、散々聞いた音だ。
窓に駆け寄ると、外でヴァンパイアらしき男が倒れている。
その前に立っているのは、銀色のピストルを手にした男。
きっと、ヴァンパイアハンターだ。
あのピストルは、ヴァンパイアハンターの仕事道具。
対ヴァンパイア用の、銀の弾丸がこめられているはずだ。
目の前で、ハンターの仕事を見るのは初めてだった。
話はしつこいほど聞かされてきたが、実際に見ると、やっぱり怖いと思ってしまう。
「……あーあ、間抜けがひとり死んじゃった」
樹莉ちゃんは、心底呆れたようにため息をつく。
「し、死ぬわけじゃないよ」
「は?」
「あの銀の弾丸は、傷つけるんじゃなくて、ヴァンパイアを人間に変えるだけだって――」
そう、父親から教わった。
現に、外で倒れているヴァンパイアらしき男は、一滴の血も流していない。
きっと目を覚ましたら人間に変わっているはずだ。
「嘘だな、それは」
背後から聞こえたのは、紫月の声だった。
「嘘、って……?」
「人間に変えるってのは合ってるが、それだけじゃない」
「紫月の言う通り。死ぬようなものよ、あんなの」