きみのためならヴァンパイア
ドアの隙間から腕を引かれて、外に引きずり出される。
そのまま突き飛ばされて、庭の柵に背中を打った。
「じゅ、樹莉ちゃん……? やめてよ……」
「嫌。樹莉、あんたに色々聞きたいんだよね」
樹莉ちゃんは、私の顔を覗き込むようにしゃがむ。
月明かりの中で、両目の鮮やかな赤が不気味に光って見える。
「なんであんたみたいなのが、紫月と一緒にいるの?」
「あ……彼女っていうのは嘘で――本当は、紫月に助けてもらっただけなの」
「嘘なのは知ってるよ。紫月が恋人なんか作るわけない。助けてもらったって何? それも嘘でしょ?」
「ちが……それは本当で……」
樹莉ちゃんが、長く尖った爪で私の頬をなぞる。
なぞられたところに痛みが走り、皮膚が切れたのがわかった。
怖い。
でも――紫月に負担をかけたくない。
だから助けは呼ばないと決めた。
こんなときくらい、自力でどうにかしなきゃ。
「初めてあんたに会ったとき。あんたが言いかけたの、樹莉、わかっちゃったんだぁ。あんたの本当の苗字、『暁』でしょ?」
そう、と言おうとして、その言葉を飲み込んだ。
わざわざそれを私に言うってことは。
暁という苗字が何を表しているのか――その答えを知ってるってことだ。
「……沈黙は肯定、そうだよね? ヴァンパイアハンターの名家の人間が、ヴァンパイアの王様に何の用だよ!」