きみのためならヴァンパイア
振り返るとそこには、鋭く光る赤い目が二つ。
――ヴァンパイアだ。
直感。危険だ。逃げなきゃ。今すぐに!
走り出そうとした瞬間、腕を掴まれる。
振りほどこうとしたが、相手はびくともしない。
「離して!」
「やだね」
そのヴァンパイア男の低い声は焦りを孕んでいて、今にも噛みつかれそうな恐怖を覚える。
あっという間に倉庫の中に引きずり込まれてしまった。
それからヴァンパイア男は私のことを乱暴に放り投げる。
倉庫の扉は閉じられて、鍵がかけられる音がした。
薄暗い。
頼りになるのは、高いところにある小窓の隙間からさしこむ、ほんのわずかな光だけ。
――暗闇は嫌いだ。
ヴァンパイアが好むから。
それに、閉じ込められて叱られた記憶がよみがえるから。
外から響く雨と風の音、それに紛れてヴァンパイア男の足音が近づいてくる。
「来ないでよ……」
ヴァンパイアは見た目こそ人間と変わらないけれど、身体能力は普通の人間よりはるかに高い。
力じゃ敵うはずもないってことは、ついさっき身をもって知った。
少しのあいだ掴まれただけの腕が、まだ痛む。
どうしよう。逃げられない。
――怖い。
いっそ、もう、すべて諦めてしまおうか?
そんな考えが脳裏をよぎって、ぎゅっと目をつぶった。
その、瞬間だった。