きみのためならヴァンパイア
――ガシャン!
大きな音を立てたのは、倉庫の扉。
どういうわけか、扉が外れて吹き飛んできた。
外はどしゃ降りだけど、あんな重そうな扉が吹き飛ぶほどの風なんて吹いてなかった。
……何が起きたの?
状況を理解できないのは私だけじゃないようで、ヴァンパイア男も動揺している様子だ。
「おいおい、なんだってんだよ……」
扉が元々あったところに、人影。
逆光のせいで顔はよく見えないが、背が高い男の人ということだけはわかる。
あの人が扉を蹴り飛ばしたとでもいうのだろうか。
「よう、悪ぃな。今から食事ってときに」
その人の嘲笑まじりの声色は、ちっとも悪いなんて思ってなさそうに聞こえる。
「あぁ? 誰だ!」
「俺が誰かって? てめーらのトップだよ」
威圧するヴァンパイア男をものともせず言い放った。
……トップ、ってどういう意味だろう。
そんな私の疑問は、ヴァンパイア男の怒号にかき消されてしまう。
「訳わかんねーこと言ってんじゃねぇぞ!」
「わかれよ、バーカ」
ヴァンパイア男が、男の人に向かって走り出す。
今にも殴りかかろうと、拳を振り上げ、叫んだ。
「邪魔すんじゃねぇ!」
そのとき、男の人はパチンと指を鳴らした。
それと同時に、指先から小さななにかが弾かれてヴァンパイア男の口に入る。
「っ、な、何を――」
「飲んだな?」
ヴァンパイア男は自分の口を押さえて沈黙する。
沈黙すれば、それは肯定と変わらない。
「てめーは二度と、血を飲みたいなんて思うなよ。さっさとどっか遠くに行け」
男の人が言うと、ヴァンパイア男はふらふらとした足取りで倉庫を出ていく。
どうして突然おとなしくなって男の人の言うことを聞くんだろう……?
さっきまでの様子が嘘みたいだ。
一連の流れを呆然と眺めていただけの私に、男の人が近づいてくる。
――どうしよう。
助けてくれた(?)けど、絶対怖い人に決まってる。
逃げたくても、力が入らない。
腰が抜けてしまったみたいだ。
男の人は私の前まで来ると、しゃがんで顔を覗き込んできた。
「お前」
「はっ、はい……」