きみのためならヴァンパイア



あのときを思い出してしまう。

……怖い。やっぱり、水瀬は嫌いだ。

けれど私はうなずいた。

ヴァンパイアの秘密、それは知っておかなきゃいけないと思ったから。


「ヴァンパイアって、18歳まで血を飲まなければ、人間になれるんだ。知らなかったでしょ?」


そんなの初耳だ。私はうなずく。


「僕はね、そうして人間になったんだよ」

「――えっ……?」

「驚いたでしょ? 僕、元々ヴァンパイア。でも血の誘惑を我慢して我慢して、耐え抜いて、それで人間になれたんだ」


水瀬の手のひらに力が込められる。

痛い。でも、怖くて声が出ない。


「だから血を吸うヴァンパイアなんてのは、自制の効かないクズってことだよ。害虫と同じさ。どう? 聞いてよかったでしょ。ヴァンパイアのこと知れてうれしい?」


うなずくしかできない。

それ以外許さない、そんな視線に貫かれている。


「――ねえ、陽奈ちゃん、(ほだ)されないでよ?」


そう言った水瀬の唇が、私の唇に触れた。

あのときと同じだ。

前と違うのは、すぐに離してくれないこと。


「……んぅ……ん――!」


水瀬の手首を掴んでも、力が強くてびくともしない。

だから私は、思いっきり手を振りかぶって――


――ばちん!


水瀬の頬を力いっぱい叩いた。


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