きみのためならヴァンパイア
「……いやぁ、なかなか、強いね? 陽奈ちゃん」
「最っ低……」
「本当にすぐ帰るつもりだったのに、君が引きとめるからさ。ほら、僕、傷つけないと気が済まないんだ」
「……早く、帰って!」
「言われなくても、もう満足したよ。それじゃ、またね」
水瀬は病室を出ていった。
また、なんてごめんだ。もう二度と会いたくない。本当に最悪。
あのときのファーストキスはなかったことにしたかったけど、また次も水瀬に勝手に奪われた。
相変わらず最低な男だ。
気分が悪いにもほどがある。
水瀬のせいで、治るものも治らなくなりそう。
……で、どうしよう。
水瀬は私を連れ戻す気がないと言っていたけど、そんなの信じられない。
水瀬じゃなくても家族の誰かが、いつか絶対に私を迎えに来るだろう。
そしたら、紫月はどうなる?
私は、そのとき紫月を守れる?
……きっと、できない。
私ひとりで家族たちや水瀬から紫月を守るなんて、無理だ。
だったら、もう。
私のワガママだけで紫月と一緒にいるのは、終わりにする――?
拳を握りしめたとき、冷たいものが手に触れた。
銀のピストル。
……こんなもの、あっても絶対に使わない。
ヴァンパイアの記憶を消してしまうものなんて、使うべきじゃない。
だからって病院のゴミ箱に捨てるわけにもいかない。
……どうしよ、これ。