きみのためならヴァンパイア
「お前はもう退院。俺が決めた」
「そ、そんな勝手な……怒られるよ!」
「は、誰に? 関係ねぇよ。早くしろ」
めちゃくちゃだ……。
でも、私は。
紫月が迎えに来てくれたことが、とんでもなくうれしかった。
荷物といっても特にないが、唯一、持ち出さなくてはいけないものがある。
――水瀬のピストル。
私には必要ないけど、置いていくわけにもいかない。
紫月に見られないようにタオルでくるみ、紙袋に入れた。
「荷物、もういいけど……なんで急に、ここ出ていくの?」
「お前、家出してたんじゃねぇの? 長居してバレたいってんなら別にいーけど」
……もう、バレてる。水瀬に。
でもそれを紫月に言うわけにもいかず、確かにそうだとうなずいておいた。
「じゃ、行くぞ」
「あ!」
「なんだよ」
「お、お金は!? 治療費とか入院費!」
「適当に置いてきた」
「置いてきたって……」
「絶対足りる額。お前がそういうこと言い出すと思ってたんだよ。もういいだろ、行くぞ」
紫月に手を引かれて、そのまま抱き止められる。
抱えあげられて、いわゆるお姫さまだっこのかたちになった。
それから紫月は――跳んだ。