きみのためならヴァンパイア



……いまなんか笑った?

そう聞くにもエンジン音に邪魔されそうで、心の内にしまっておいた。


夜風を切って走るのは、意外と心地よかった。

怖さをあまり感じないのはきっと、私がしがみついている背中のおかげだろう。


辺りは暗く、見覚えもない道を走る。

家に帰るのか、どこかに行くのか、行き先はわからない。


――でも、紫月がいるから大丈夫。


私を安心させてくれる背中をよりいっそう強く抱きしめる。

……願わくば、この時間が少しでも長く続きますように。





どのくらい経っただろう。

行き先が絶対に家じゃないなと思い始めた頃、バイクは大通りから外れた道へ逸れ始める。

それから少し走って、林を抜けると、ぽつんと建つ一軒家が見えた。

玄関のライトが、かろうじて微かに辺りを照らしている。

紫月は家の前にバイクを停めた。


「ここって……?」

「新居」


新居ってことは、ここが引っ越し先なんだ。

辺りに家どころか人気(ひとけ)もなく、ここなら私は安心して暮らせそうだ。


「こっちに住むのは来月からだけど、今日は泊まる」


紫月は、家の中に私を迎え入れてくれた。


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