きみのためならヴァンパイア
……いまなんか笑った?
そう聞くにもエンジン音に邪魔されそうで、心の内にしまっておいた。
夜風を切って走るのは、意外と心地よかった。
怖さをあまり感じないのはきっと、私がしがみついている背中のおかげだろう。
辺りは暗く、見覚えもない道を走る。
家に帰るのか、どこかに行くのか、行き先はわからない。
――でも、紫月がいるから大丈夫。
私を安心させてくれる背中をよりいっそう強く抱きしめる。
……願わくば、この時間が少しでも長く続きますように。
◆
どのくらい経っただろう。
行き先が絶対に家じゃないなと思い始めた頃、バイクは大通りから外れた道へ逸れ始める。
それから少し走って、林を抜けると、ぽつんと建つ一軒家が見えた。
玄関のライトが、かろうじて微かに辺りを照らしている。
紫月は家の前にバイクを停めた。
「ここって……?」
「新居」
新居ってことは、ここが引っ越し先なんだ。
辺りに家どころか人気もなく、ここなら私は安心して暮らせそうだ。
「こっちに住むのは来月からだけど、今日は泊まる」
紫月は、家の中に私を迎え入れてくれた。