きみのためならヴァンパイア
「言うことを聞く、とは……?」
「ご主人様になってやるよ」
「や、遠慮します」
嫌な予感しかしないもん。
絶対、とんでもないこと言いそうだもん。
さっきのヴァンパイア男にだって、何をしたのかわからない。
私にだってきっと、あんな風になにか飲ませて無理やり従えさせるつもりなんだ。
「あっそ。じゃ、達者でな」
彼は意外にも、あっさりと手を振ってから引っ込めた。立ち上がり、踵を返して去ろうとする。
「まっ、待って待って!」
「なんだよ」
「……あの、腰が抜けて立てないんだけど、助けてくれたりは……」
「俺の言うこと聞かないのに、お前の言うことは聞けって? わがままか?」
「ですよね……それじゃ、だいじょう――ぶっ!?」
私が言い終わらないうちに、彼は私の脇を掴んでひょいと立ち上がらせる。
あまりにも軽々とやったから、一瞬何が起きたかわからなかった。
「で? これからどうすんの、お前」
「あ、ありがとう……? とりあえず、なんか、住めるところを探そうかなって……」
「そうかよ。ま、ここから出た瞬間、また襲われて終わりだけどな」
「……え……」
「迷子のヒヨコちゃんは気づいてなさそうだけど、ここ、ヴァンパイア居住区な」
――ヴァンパイア居住区。
聞いた瞬間、冷や汗が背中を伝った。
まさかそんな、とんでもないところに来てたなんて。