きみのためならヴァンパイア
稀血




居心地が悪い。

実家のベッドみたいだ。

物は悪くないけど、息苦しい。そんな感覚。

こんなところにいたくない。


意識が覚醒したのは、自分の咳によってだった。

微細なほこりが気管に侵入したのがわかる。

最悪の目覚めだ。


むせて、涙でぐずぐずの目を開く。

ここは薄暗い大空間ーーの、一角のようだ。

辺りに無造作に置かれているのは、錆びた機械のようなものや鉄パイプだ。無骨なライトが周囲をまばらに照らしている。

廃工場といった感じの雰囲気だ。

そして、それらには不似合いな、大きくてふかふかのソファの上に、私は寝かされていたようだった。


嗅がされた薬品がまだ残っているのか、からだがだるい。

どことなく頭もくらくらする。

近くに人影はなく、私をここへ連れてきたのが誰かもわからない以上、声を出すのもはばかられる。

私の家族じゃなさそうなのは確かだ。

そうなると、誘拐……?

けれど私の手足も自由なまま、見張りもいないなんて、誘拐犯が何を考えているのかわからない。


……とにかく、出口を探そう。

誘拐犯の目的も正体もわからないが、逃げてしまえば関係ない。


うまく動かないからだへの不安を消し去るように深呼吸をして、立ち上がる。

その瞬間、私の肩に誰かが触れた。


「おはよ」


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