きみのためならヴァンパイア
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紫月は怒っているかもしれない。
けど、私は晴れやかな気分だった。
ピストルのことも、水瀬のことも、もう大丈夫。
……正直、水瀬の『またね』という言葉だけ、ちょっと気になる。
とはいえ私に追っ手がかかってない以上、水瀬が私のことを私の家族に話していないというのは本当のはず。
水瀬は、もうそこまで私に執着していないのかもしれない。
そもそも暁家の名がなくたって、水瀬自身、ハンターとしての腕はあるのだから、私と結婚なんかしなくてもいいはずだ。
そう考えるとやっぱり、水瀬のことは心配しなくてもいいと思えた。
あとは、紫月に本当のことを話すだけだ。
きっと紫月は、私の話を聞いてくれるって信じてる。
私の心を映したような、晴天の帰り道。
まず、何から話そうかな。
そんなことを考えていたからか、浮かれていたからかーーとにかく、私はそのとき油断していた。
突然、後ろから伸びた手に布で口をふさがれた。
咄嗟に出した私の叫びは、布に吸収されて消えてしまう。
手足をバタつかせても、相手の力が強くて振りほどけない。
男の腕だ。きっと背も高い。
まさか、家族に居場所がバレた?
「んー、君の血、おいしーかなぁ?」
その言葉で、相手がヴァンパイアだということを理解した。
まさかこんな真っ昼間に、輝く太陽の下でヴァンパイアに襲われるなんて。
……それにしても、どこかで聞いた声だった。
考えようにも、頭がぼうっとして、思考が続かない。
布から薬品めいた匂いがして、身の危険を強く感じたがーー抵抗もむなしく、私の意識はそこで途切れてしまった。