きみのためならヴァンパイア
陸君はおもしろがるように、笑った。
「ははっ、それ本気? わかんないんだ?」
「えっとーーどういうこと? わかんないよ……」
「へぇ、かわいーね。陽奈ちゃん」
目の前に、陸君の顔が迫る。
笑顔なのに、優しい声なのに、どうしようもなく恐怖を感じるのは、口に覗いた牙のせいだろうか。
「そんなの、君が無力だからに決まってるでしょ」
絶望のどん底に突き落とされたようだった。
やっぱり陸君は、悪いひと。
少しでも信用しようとした自分が馬鹿馬鹿しく思える。
「っ、やめて!」
首筋に迫る陸君を、必死に押しのける。
しかし私の両手はすぐに掴まれて、陸君の片手の中に収められてしまった。
「ほら、ね?」
無力だ、なんて、自分が一番わかってる。
けれど、だから、ちゃんとしたかった。
紫月と一緒にいるために、私にもできることがあるから。
だったらそれから始めようって、そう思ったのに。
結局、こうして捕まって、私の抵抗なんか無意味で、紫月と話すことも叶わない。
……なにしてるんだろ、私。
「あー、泣いちゃった。涙って血からできてんの。もったいないから泣かないでよ」
陸君は、私の目のふちをちろりと舐めた。
「……騙されたかなー、俺」
「え……」
陸君の呟きがなんのことかわからなかった。
騙された? 誰に、何を?
けれどこの状況で疑問を言葉にする余裕はない。
「まーいいや、こうすればわかるよねぇ。いただきます」