きみのためならヴァンパイア



陸君が言った次の瞬間、首筋に痛みが走る。

ーー紫月と、違う。

紫月が血を吸うときは、全然痛くなかった。

ふと、紫月に言われたことを思い出した。


『人間が吸血依存症なんてのになるのは、血を吸ったヴァンパイアがよっぽど下手くそか、わざと(・・・)やってるからだ』


もしかすると陸君は、私を吸血依存症にさせるつもりじゃーー?


「くっ、陸君、やめて! 私、依存症になりたくない!」


私が言い終わるのと同時か少し早いくらいに、陸君は私の首筋から口を離して起き上がった。

陸君の唇の端から滴る血が私のものかと思うと、頭がくらくらする。


「……クソ、やっぱりな。あの女、許さねー」


女? 陸君、誰かに怒ってる?

戸惑う私に気づいたのか、陸君は私を見下ろしながら口を開く。


「安心して、陽奈ちゃんの血、もういらないから。俺、騙されちゃったみたい」

「……さっきから、騙すとか、女とか、何の話? 私に関係あるの?」

「陽奈ちゃんが稀血だって聞いてたから楽しみにしてたのに。嘘じゃん? 最悪だよ」

「稀血……?」


珍しい血、ということだろうか。

そんな話、親からも聞いたことがない。


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