彼女はまだ本当のことを知らない
 それからのことはあっという間だった。

 次の日には、私はランスロットのご両親に引き合わされた。

 ランスロットと同じ狼獣人のテイラー侯爵は、何度か見かけたことがあった。
 ランスロットより髪の色が濃く、ランスロットも年を取ったらあんなふうになるのだなぁと思わせる程に、父親と息子は良く似ていた。
 一方彼のお母様は、ウサギ獣人とは聞いていたけど、耳はたれ耳でぽっちゃりしていて、つぶらな瞳が愛くるしい。
 その上若々しく、成人した息子がいるようにはとても見えない。
 とは言え、やはり国の首都に居を構える高位貴族なだけあり、漂う気品と威厳はさすがだ。

 貴族と言っても爵位があるだけで、農作物を育て家畜に餌をやり、刺繍ではなく繕い物をする私の両親とはまるで違う。
 優雅にお茶を嗜み、目が飛び出る値段のドレスを着て、住んでいる邸も大きく立派だし、使用人も多く雇っていて、我が家など比べ物にならない。
 我が家や両親を恥ずかしいと思ったことはないが、平民と貴族以外に、貴族間にも格差はあるのだと実感する。
 しかも獣人となると、単純に同じ爵位でも獣人でない者との格差もあるのだ。
 貧乏男爵家の娘で、獣人でもない私が、獣人で侯爵のランスロットとこんなことになるなんて、今でも夢を見ているようだ。
 けれど、夢でないことをさんざんランスロットに抱かれ、今でも少し怠い体が教えてくれている。

「こんにちは、あなたがタニヤさんね、ランスロットの母のマリーンです。よろしくね」
「父のレイナードだ」
「は、はははははじめまして、タニヤ=カルレロンです」
「カルレロン?」

 二人が同時に首を傾げ、そんな名前だったかと不思議そうな顔をする。

「え、あ、いえ、その違った、カレロ…いえ、キャレ、あれ?」

 緊張のあまり舌がもつれて、「カルデロン」という自分の家名が言えない。焦ってパニックになった。

「タニヤ、落ち着いて、ほら、俺を見て」

 そんな私の頬を両手で挟み込み、ランスロットが優しく声をかけてくれる。

「大丈夫、父上は顔は怖いが、優しい方だ。母上も怒ると怖いが、二人共君のことは歓迎してくれているよ」
「なんだ顔が怖いとは」
「そうよ。怒ると怖いなんて酷いわ。私は怒ったりしませんよ」

 息子の言葉に二人は抗議する。

「すみません、でも、お二人が怖くないことと、タニヤを気に入ってくれていることは伝えないと」

 不満そうげ両親にランスロットがそういうのを聞いて、私のせいで三人が険悪になったらどうしようと思った。

「ランスロット、ご両親にそんな風に言ってはだめよ。とても優しそうな方たちだわ。失敗したのは私なんだから、そのせいでお二人と喧嘩しないで」

 それからランスロットが何か言う前に、二人の方に顔を向けた。

「改めてはじめまして、タニヤ=カルデロンです。よろしくお願いします。先程は失礼しました」

 最初からやり直しになったが、ようやく自己紹介できて、緊張が少し解れた。

「こちらこそ。しっかりしたお嬢さんね」
「本当に、そんなに緊張する必要はない。ようやく息子に『番』が出来たんだ。歓迎するよ」

 二人はにこやかに微笑んだ。

「タニヤ、ごめんね。君に変な気を遣わせてしまった」

 ランスロットは私が注意したことで、耳がペコンと下を向いてしまっている。
 よく見ると、彼のお父様よりランスロットの耳の方が大きくて長い。
 そこは大きな耳のお母様譲りなのだろうか。

「俺には実の両親だし、実家だから緊張しないけど、君には初めてなんだから、緊張するのは当たり前だ。気付いてあげられなくてごめん」
「私からも、許してやってほしい。『番』に対して獣人は敏感になり過ぎるところがある」

 父親と息子はは謝りあった。
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