【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
 俯いて目を押さえて、涙をこらえる。別に婚約破棄されたのが辛いわけじゃない。

 ……私の存在価値がなくなったことが、辛いのだ。

「あら、もしかして……」
「ショックすぎて、泣いていらっしゃるの?」

 周囲にいたご令嬢たちが、こそこそと言葉を交わす。

「けど、当然と言えば当然ではなくて? あんな地味な女、ゲオルグさまには相応しくないわ」
「えぇ、本当」

 嘲笑を含んだ声が聞こえてきて、私は耳をふさぎたくなった。

「大体、面白みのない女なのに、次期公爵夫人に収まろうとしたのが、間違いだったのよ」

 誰かがそうはっきりと言った。

 その言葉は伝染していき、先ほどまで野次馬を決め込んでいた人たちも、こそこそと話をする。

 内容は大体、同じものだ。

 私は彼に相応しくなかった。だから、婚約破棄をされて当然だ。むしろ、今まで婚約破棄を告げられなかったことが奇跡だ……などなど。

 誰も私のことなんて庇おうとはしない。

 ……そりゃそうだ。元婚約者であるゲオルグさまのおうちはこの国でも筆頭に名を連ねる公爵家。対する私のおうちは、名門とはいえ最近落ちぶれ始めている伯爵家の娘。

 どちらの味方をすれば利益が大きいか。そんなもの、子供でも分かる。

 それほどまでに簡単な問題だった。
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