捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 食事を終えた私は、後片付けをすることとなった。

 ヴィリバルトさんに教えてもらいつつ、テーブルを拭いて、食器を洗う。

「洗剤はこれくらいが適量です。もちろん、油ものとかだと、また別ですが」

 彼は不慣れな私の手際を見ても嫌な顔一つしなかった。

 それどころか「伸びしろしかないっていうことですよ」なんて言うほどだ。

 ……この人は、私を甘やかしているのではないだろうか?

「あっ、袖が……」

 ふと衣服の袖に洗剤が付いてしまいそうになって、慌てる。そんな私を見て、ヴィリバルトさんはさっと袖を上げてくれた。

「今度からはきちんと上げておきましょう。もしくは、ひもでくくっておくとか……」
「……そ、そうですね」

 袖を上げる際に彼が私のすぐそばに来た。そのときにふわっと香ったのは柑橘系の爽やかな香り。……これ、香水、だろうか?

(こんないい香りのする男の人って、珍しいわよね……)

 ちらっと彼の姿を確認する。

 一見するともさっとしたダサい人。

 でも、よく見ると彼って割と素質があるんじゃないだろうか。

(見える部分だけでも、かなりきれいだもの)

 口元は艶めかしいし、鼻筋もすっと通っている。目元は見せてくれないけれど、隙間から見える目は悪くはなさそう。

 ……顔を出せばいいのにって、少しだけ思う。
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