捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
(だけど、彼はなにか思うことがあるんでしょうし……私がなにかを言うことも出来ないわね)

 そう思って蛇口をひねると、あまりにも勢いよく水が出すぎて、私の衣服を汚した。

「大丈夫ですか!?」
「……は、ははは」

 私よりも慌てふためくヴィリバルトさん。その姿を見ていると、なんだか無性に落ち着いてくる。

 これが自分よりも慌てている人を見ると落ち着く心理なんだろう。……よくわかった。

「なんか、びしょびしょになっちゃいました……」

 苦笑を浮かべて彼を見つめれば、彼がドタバタと何処かに走っていく。

 ぽかんと見送る私。しばらくして戻って来た彼の手には、真新しいタオルがある。

「風邪引いたら大変ですよ……って、あ。その、別に他意はないですからね」

 彼が私の衣服を拭こうとして、ハッとして後ずさる。

 ……あぁ、濡れたのって丁度胸元か。

「ヴィリバルトさんに限って、そういうことはないってわかってますよ」

 くすくすと笑って、私は手を洗ってタオルを受け取る。
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