捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
 あの浮気事件から数時間後。

 私は、街にある大衆食堂で今後のことを考えていた。

(持っているのは、銀貨二枚と銅貨数枚か……)

 お世辞にも、お金がたくさんあるとは言えない現状に、項垂れそうになる。でも、これは私が決めたことだ。その一心で、自身の頬をパンっとたたいた。

「とりあえず、お腹空いたし……」

 そう呟いて、私は目の前にあるパンを口に運んだ。

 ここにきてすぐにランチセットを注文していた。今はしばらく時間が経っているので、スープとかは冷めている。けど、猫舌の私には丁度いいような気もする。

「さぁて、本当にこの後どうするか……」

 小さくそう零して、スープを口に運ぶ。

 周囲をぐるりと見渡せば、よくわからない恰好をしたグループがたくさんいる。旅芸人とか、そういう人、なのかも。

(そもそも、大衆食堂に来たのも初めてだしね……)

 ただ、専属の侍女からこういう店があるということ。そして、割と治安のいいお店を教えてもらっていたので、迷いなくこのお店にやってきた。なんでも、このお店は貴族がお忍びで来ることもあるというのだから、驚きだ。

 貴族って、私の両親みたいに高級なものしか口にしないのかと思っていたんだもの。

 って、今はそんなことはどうでもいい。

「というか、やっぱり働かないとダメよね……」

 グラスに入ったオレンジジュースを飲みながら、私はぽつりとそう零す。

 働かざるもの食うべからずである。だから、私は働くべきだ。……貴族じゃ、なくなったわけだしね。

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