捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。
「まぁ、なんとでもなる……か?」

 サラダを口に運びつつ、私はそう言葉を漏らした。

 あの後、お屋敷に戻れば門が固く閉ざされていた。門番に声をかけたものの、彼らはゆるゆると首を横に振るだけで、なにも言わない。……多分、両親から「なにも言うな」と命じられているのだろう。それと、「メリーナを絶対に屋敷に入れるな」とも。

 ただ、門番は手紙らしきものを私に手渡してきた。そこにはお父さまの字で「お前を勘当する」ということが綴られていた。

 幸いだったのは、さすがに無一文で放り出すという醜聞の悪いことはせずに、お金を持たせてくれたことだ。

 ……銀貨二枚と、銅貨数枚だけだけれど。

 いや、ないよりは全然マシだけれど。

(多分、ここら辺の相場で言えば三日は宿にでも泊まれるはずだわ)

 侍女に教えてもらっていた相場と照らし合わせつつ、私は頭の中で素早く計算していく。正直、こういう計算とかは好き。

 両親は「女に勉強は必要ない」って言ってたけど。……思い出しただけで腹が立つので、思い出さない方向で行こう。

「けど、三日、三日かぁ……」

 その間にお仕事が決まるなんて思えない。ついでに、住む場所が見つかるとも思えない。住み込みとか、そういうのだったらまだなんとかなる……かもだけど。

(得体のしれない女、しかも未経験。こんなの、雇うだけ無駄よねぇ)

 相手だって慈善事業じゃないのだ。戦力になる人間ならばまだしも、こんな働いたことのない小娘を簡単に雇うとは思えない。

 ……ある意味、ヤバい状況だ。

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