つれない男女のウラの顔




「本当にありがとうございました。寝る時間はあまり残っていませんが、ゆっくり休んでくださいね」


私の願いも、ちいさな妨害も虚しく、結局サービスエリアで一度休憩しただで、あっという間にアパートに着いてしまった。

おまけに、夜間の道路は驚くほど空いていて、予定より早く到着する始末。

成瀬さん体のことを考えたらこれでよかったのだけど、もう少しあの車に乗っていたかったというワガママが、私の心を支配している。

とても離れがたい。


「お疲れ様。花梨もゆっくり休んで」

「はい…」


そんなに優しい目で見つめないで。どんどん寂しさが込み上げてくるから。

これが一生の別れではない。それどころか、職場も同じで部屋は隣。いつでも会える距離なのに、なぜかひとりで部屋に入る勇気が出ない。

この数時間があまりにも濃厚だったから、ひとりになるのがちょっと怖い。


「…ひとりで大丈夫か?」

「え?」


まるで私の心の中を読んだかのような言葉に息を呑んだ。咄嗟に「全然大丈夫です」と返すと、成瀬さんは「そうか」と言ったあと続けて口を開いた。


「親御さんに会えて少しは安心出来たかもしれないけど、まだ不安は続くだろうから。もし何かあったらいつでもインターホンを鳴らしてくれたらいい」

「…優しすぎでしょ」

「ん?」

「いえ、ありがとうございます。とても心強いです」


思わず本音が漏れて、慌てて誤魔化した。

チラッと成瀬さんを捉えると、なんだかいつも以上にかっこよく見えた。元々イケメンだけど、なぜかキラキラ輝いて見える。寝不足で目がおかしくなったのだろうか。


「じゃあおやすみ」

「はい、おやすみなさい」


ドアを開けて、自分の部屋に入った。シンと静まり返った部屋にひとりきりになった途端、一気に現実に引き戻されて、力が抜けた。

成瀬さんは隣の部屋にいるのに、この距離がもどかしい。離れた瞬間から会いたくなる。




───ねえマイコ。これって本当に推しに対する気持ちと一緒なの?

< 132 / 314 >

この作品をシェア

pagetop