つれない男女のウラの顔

結婚願望がない成瀬さんにとって、自分に娘がいるなんて想像も出来ないはず。なのに、肯定の仕方が満点だ。いま目の前に父がいたら、豪快に笑いながら目尻に皺を作って、とても喜んでいただろう。

私が悩みや弱音を吐いた時も、成瀬さんは必ず寄り添ってくれる。この人は絶対に否定しない。だから頼れるし信じられる。

とても“良い人”。


「母もその夢を叶えてあげたいみたいで、最後は質問攻めを食らってしまいました。付き合ってる人はいるのか、とか、好きな人はいないのか、とか。母も若くはないので、私に浮いた話がないのが心配みたいで。ひとりっ子なので余計に…」

「…それで、花梨は何て答えたんだ?」

「…頑張って、良い人を探すからって…必ず連れてくるからって、約束してしまいました。父の検査結果が何もなければいいんですけど、場合によっては結構ピンチですね」

「約束…結構思い切ったな」

「自分でも無謀なことをしたって分かってます。結婚なんて半ば諦めていましたから。でも父に夢だって言われたら、叶えてあげたくなっちゃって…」


男性と目も合わせられなければ、手に触れただけで赤面してしまうような私が、すぐに良い人を見つけられるとは思えない。自分でも無謀な挑戦だと分かっている。


「花梨は父親思いだな」

「いえ、バカなだけです。とにかくコミュ障なので不安しかありません」

「花梨ならすぐに見つけられるだろ。とりあえず石田みたいな奴にだけは引っかかるなよ」

「…はい、頑張ります」


──私は、成瀬さん以上に良い人を見つけられる自信がありません。

そう言いかけてやめた。きっと戸惑わせるだけだから。


もしも本当に良い人が見つかったとして、その人と付き合うことになったら…こうして成瀬さんと車に乗ることも出来なくなる。成瀬さんはいつでもここへ連れて来てくれるって言ったけど、次にここへ来るとき隣にいるのは、成瀬さんではなく別の男性かもしれない。

そう考えると寂しくて、胸が苦しくなった。


「成瀬さん、そろそろ休憩しなくて大丈夫ですか?」


私はずるいから、こうして時間稼ぎをしようとしている。いつ最後になるかも分からない彼とのドライブを、休憩を理由に長引かそうとしているのだ。

どうしてこんなことを思ってしまうのかは分からない。だけど、少しでも長く一緒にいたかった。
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