つれない男女のウラの顔
──どうしてそんな目で見るの。
心で引き止められたような感覚に、思わず動きを止めた。
「…成瀬さん?」
私の声にハッとした成瀬さんは「…俺も準備をするよ」と零すと、すぐに布団を出て私に背を向け、クローゼットを開けた。
背中越しに「どれくらいで準備が出来る?」と問われ、咄嗟に「30分もあれば」と返した。
「了解。朝食は車の中で済ませようか。本当はもう少し早く起きて朝食を用意する予定だったんだが、普通に寝坊してしまったからな…」
「えっ、今日って車でデートですか?」
「俺はそのつもりだったが…電車の方がいいか?」
「あ、いえ。車の方が嬉しいですけど、運転ばかりさせてしまって申し訳ないなって…」
もちろん電車より車の方がいい。成瀬さんの運転は好きだし、車の匂いも好きだし、なによりふたりきりになれるから。
また成瀬さんの車に乗れると思うと心が弾む。だけど、つい先日徹夜で運転させてしまったばかりなのに、またお世話になるのはさすがに気が引けた。
「運転は趣味のようなものだって言ったろ。だから心配いらない。それに車の方が動きやすいし、電車だと会社の人間に見られる可能性があるからな」
確かに…。石田さん事件のせいで、私に彼氏がいるという噂が社内に流れてしまった。もし私達がふたりきりでいるところを目撃されてしまったら、付き合っていると勘違いされて成瀬さんを巻き込むこときなってしまう。
「…では、よろしくお願いします」
素直に頭を下げると、成瀬さんは再び私に視線を移し「任せろ」と得意げに口角を上げた。
そういう顔もするんだ。と、また新しい彼を知れたのが嬉しくて、思わず顔が綻んだ。
「急いで準備してきますね」
「うん、終わったらインターホンを鳴らして」
───ドライブデート、楽しみだ。