つれない男女のウラの顔

息を止め、咄嗟に目を瞑った。

優しく触れた熱が、ゆっくりと離れていく。時間にすればほんの一瞬だったけれど、まるで時間が止まったかのように長く感じた。


「…顔、真っ赤だな」


後頭部に彼の手が添えられたまま、至近距離で放たれた言葉に、こくりと頷く。


「旭さんも、少し赤い気がします」

「気のせいだろ」

「そんなこと…ていうか、恥ずかしいのであまり見ないでください」

「なんで?俺はその顔、結構気に入ってるけど」

「ちょっ…からかわないでくださいよ…」


まるで本物のカップルみたいなやり取りが、嬉しくて幸せで、だけどどこか切ない。

この甘い成瀬さんを感じられるのは今だけなのかと思うと、胸が苦しくて、無性に泣きたくなる。


「旭さん」

「うん?」

「あと1回だけ、練習(・・)してもいいですか?」


私がこうして大胆な発言が出来るのも、今だけ。


「…そのセリフ(・・・)も練習?」

「え…?」

「他の男には、あまりそういうこと言うなよ」


それはどういう意味?と、問いかける隙も与えられないまま、成瀬さんは再び私の後頭部を引き寄せると、今度はさっきより少しだけ長いキスをした。

離れたと思ったら、また唇を塞がれる。1回だけってお願いしたはずなのに、啄むように何度も唇を重ねられた。

それともこれが1回になるのだろうか。これが本物のキスというやつで、さっきのはウォーミングアップだったのかもしれない。

どちらにせよ、初めてのキスはとにかく受け止めるのに必死だった。

ただじっと目を瞑って、息を止めることしか出来なくて…少し苦しいけど、でもその熱が心地よくて、一生この熱を感じられていたらいいのにと思った。


幸せなのに、やっぱりどこか切なくて、目頭が熱くなるのを感じた。
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