つれない男女のウラの顔
どうして成瀬さんの連絡先を訊いておかなかったのだろう。
彼の居場所が把握出来ない。気持ちを伝えようにも、直接会う以外の方法がない。どうしようもなくもどかしい。
とりあえずアパートに戻った私は、彼の車が駐車場にとまっていることに気付いた。ということは、ふたりで成瀬さんの部屋にいるのだろうか。
一旦自分の部屋に戻り、荷物を置いた。隣の部屋から物音は聞こえない。話をしているのだろうか。こないだみたいに、ソファに座って映画を観ていたりして。それとも…。
変なことを考えそうになって、ぶんぶんと頭を横に振った。
今は悩む時じゃない、行動する時だ。と、何も持たず部屋から出た私は、彼の部屋の前に立った。
足が竦む。緊張で心臓が激しく波打って、呼吸が浅くなる。
それでもここで諦めるわけにはいかなくて、意を決してインターホンに手を伸ばした。匠海くんに頑張れって言ってもらえたお陰で、迷いはなかった。
鳴り止まない心臓を押さえ、恐る恐るインターホンを押した。吐きそうなほど緊張しながら、彼が出てくるのをじっと待った。
──けれど、いつまで経ってもドアが開く気配がない。
もしかして出掛けたのだろうか。車ではなく、電車でどこかへ行ってしまったのかもしれない。私が匠海くんと喫茶店にいる間、入れ違いで駅に行ってしまった可能性がある。
もしかしてもう手遅れ?成瀬さんは一ノ瀬さんと…?だめだ、追いかけなきゃ。
考えるより先に動き出していた。
彼の部屋の前を離れ、階段を駆け下りた。
そのまま再び駅に向かって走ろうとした───けれど、エントランスを出ようとしたところで、ふと足を止めた。
「なんでこんな時に…」
最悪のタイミングで雨が降り始めた。夕立なのか最初から雨の勢いは強く、アスファルトに次々と染みを作っていく。
地面に打ち付ける激しい雨を見て躊躇していると、その直後に私の嫌いな雷の音が響いて、咄嗟に耳を塞いだ。
足が竦んで動けない。だけどこのまま何もせず部屋に帰るのも嫌だ。
(大丈夫、雷はまだ少し遠いから…!)
そう自分に言い聞かせ、思い切って一歩踏み出した───その時だった。