つれない男女のウラの顔

無理やり襲うような最低な男にならなくてよかった…いや、もうアウトかもしれないが。

こんな自分を知らなくて戸惑っている。自分ですらそう感じるのに、花梨は本当に怖かっただろう。

本当は強く抱き締めて謝りたかったが、それをするとまた止められなくなりそうで躊躇した。しかも今密着したら、確実にバレる。俺自身(・・)が、かなり反応していることに。

優しい花梨のことだ。もしそのことに気付いたら、罪悪感に襲われ、抱え込む可能性がある。それだけは何としてでも避けたかった。


「私もまだ心の準備が出来ていなかったので…」


花梨のこの言葉に心底ほっとした。あのまま進めていたら、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。

何とか理性を保つことは出来たが、それでも彼女に触れたかった。髪を撫でて額にキスを落とすと、安心したように微笑む花梨が愛しくてたまらなかった。









「成瀬君、今日はいつも以上に不機嫌だな」


何かあったのかい?そう続けた男は、休憩スペースのスツールに座っていた俺の隣に、ドスンと腰を下ろした。


「眉間に皺が寄ってるぞ。まるで不良みたいだな。いや、もはや暴走族だ。おーこわ」

「…うるさいな」


この男はいつも変なタイミングで現れる。しかも必ずうるさい。こっちは考え事をしているんだ。少し黙っていてほしい。


「その負のオーラはもしかして…失恋か?」


にやりと口角を上げた二輪を横目で一瞥してから溜息を吐いた。

失恋じゃねえよ。むしろめでたく彼女が出来た。危うく失恋も経験するところだったが、あの後は夜まで一緒に過ごして、普通に楽しかった。

…でも、幸せなはずなのに、心は満たされているはずなのに、なぜかモヤモヤする。花梨が大事過ぎるあまり、どうすればいいのか分からない。

< 272 / 314 >

この作品をシェア

pagetop