つれない男女のウラの顔

episode5



脱衣場で昨日と同じ服に着替え、鏡を見ながら寝癖を整える。

ここで軽くメイクも済ませたいところだけど、普段メイク道具は化粧直し用のファンデーションしか持ち歩いていないから、あとでコンビニでアイブロウだけ買うことにした。どうせマスクをつけるから、眉毛さえ整えればどうにかなるし。

ぺちぺちと軽く頬を叩いて深呼吸をする。

──よし、行くか。






「ほんっっとうにお世話になりました。大変助かりました」

「こちらこそ、朝食作らせてしまって悪かった」

「いえ、それくらいの事はやらせてください。また改めてお礼はさせていただきますが…」

「礼はプチトマトなんだっけ?」

「まさか。プチトマトだけじゃ足りませんよ。何か食べたいものとかあれば遠慮なく仰ってください」

「気持ちだけ受け取っておくよ。それより愛情込めたプチトマトを楽しみにしてるから」

「それはもちろんです。任せてください」


玄関で靴を履き、成瀬さんに何度も頭を下げる。彼はまだ部屋着のままだけど、態々お見送りしてくれるところが紳士的だ。


「石田さんから必ず鍵を返してもらいますので。それまではこのアパートに帰らない覚悟で行ってまいります」

「…うん、頑張って」

「本当にありがとうございました。お邪魔しました」


成瀬さんの部屋を出ると、まだ朝だというのにじめっとした暑さに襲われ、思わず顔を顰めた。

それにしても、ここは私が住んでいるアパートなのに、いつもと違う部屋から出たというだけで全く別の場所のような感覚に陥る。自分の部屋のドアを見て、懐かしい気持ちにさえなった。



アパートから数十メートル離れた場所にあるコンビニに寄り、ふと窓に映っている自分の姿を見て、思わず足を止めた。

昨日と同じ服…何だかものすごく抵抗がある。まぁ会社に着いたらすぐに作業服に着替えるし、変に怪しまれることはないはずだけど。

ただ、ふとした時に成瀬さんの服と同じ匂いがして、その度に成瀬さんのことを思い出して体温が高くなる。

成瀬さんが洗濯をしてくれたのだから、同じ柔軟剤の匂いがするのは当たり前なのだけど、つい先ほどまで成瀬さんのTシャツを着ていたせいか、胸がきゅうっと苦しくなった。



………………寝起きの成瀬さんが見れて嬉しかったな……じゃないのよ!!
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