つれない男女のウラの顔

いつもシャキッとクールにキメている成瀬さんの寝起きの姿は、とてつもなく心臓に悪かった。

とろんとした目に、軽い寝癖。掠れた声の「おはよう」は、暫くのあいだ頭から離れなかった。

あの姿はかなりレアだ。レアなポケモンよりレア。刺激は強めだけど、貴重なお姿を見ることが出来たと思う。

……まぁ、その話は置いといて。



(…成瀬さん、疲れてないかな)


誰かと一緒に住むなんて考えられないと言っていた彼が他人を泊めたのだから、きっと相当なストレスだったはず。私との時間は苦痛に感じないと言ってくれたけど、あれもきっと彼なりの気遣い。

だから一刻も早くひとりにさせてあげなきゃと、急いで部屋を出たけど…わざとらしくなかっただろうか。


──でも本当は、もう少しだけあの部屋にいたかった。なんて思ってしまうのは、彼の部屋がとても居心地が良かったからなんだろうな。私の部屋と同じ間取りだから落ち着くのかも。


朝食はお味噌汁と卵焼きという簡単なものだけ作らせてもらったけど、小さく「うま」って呟いたあとに、優しく目を細めた彼の顔が頭から離れない。

マイコの言う「顔が強い」の意味が何となく分かった気がする。成瀬さんの顔って、恐らくめちゃくちゃ強い。気付いたら彼の横顔を眺めてる。勝手に目がいってしまう。女性社員達が成瀬さんに夢中になる気持ちが理解出来る。


「………いやいや、成瀬さんのことばっかり考え過ぎでしょ」


これだから男慣れしていない人間は。と溜息を吐いた。初めてのお泊まりを経験して、変に意識している自分が恥ずかしい。

今の私にそんなことを考えている暇なんてないのに。だって石田さんから鍵を返してもらわなきゃいけないのだから。このコミュ障の私が、自分からアクションを起こさなければいけないのだ。

どうやって返してもらうのがベストだろう。今ラインを送るべきなのか、タイミングを見て資材部に伺うべきなのか、それとも帰りに待ち伏せするか。


……考えただけで吐きそう。

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